The Man without a Past/アキ・カウリスマキ
目次
あらすじ
旅の男。
公園のベンチに腰をおろす。
ダダモレする哀愁。
なにっ!突然後ろからポカンと殴られた!!
のびたところを身包み剥がれ、息の根を止めるためなのか、更にドカドカ血祭りに!!!
そして旅の男は変わり果て、「公園の死体」となった。
いやしかし、次のシーンで歩いている。ン?
しかし更に次のシーンでは、バタンと倒れ「男子便所の死体」にレベルアップ!!!
……かと思えば病院にいて、けど5時12分、顔まで布をかけられて、ついに医者と看護士も認める、ご愁傷様な「ホンモノの死体」になっちゃったってワケよ。
顔に布、機械はピー。
死体としてはどう考えても最終バージョン、人生としてはハイこれまでヨ!!
いくらなんでも、この続きはあの世でどうぞ!!かと思われた。
しかし包帯でぐるぐる巻きの死体は、不屈の往生際でもって、いま一度がばっと起き上がる。
うーんなんというバネであろうか!!
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生き返った死体はまず、殴られて曲がった鼻をぐいっと戻す。
この生命力。このツカミ。このクドさ。なのに淡々。
うーん、やっぱカウリスマキ監督だなぁ~、と鼻の下が伸びるヒトコマ。
そして今度は、川のほとりにすっかり馴染んで見覚えのある死体。でもよくよく見れば動いてる。そして、ここからが、お話のはじまり。
過去がなくても未来があるさ
彼はもうスッカリ死体ではない。
しかし、頭をズゴンと殴られたせいか、はたまた何度も死にすぎたせいか、別に理由はどうでもいいけど、過去の記憶がスッポ抜け。
よって当然名前もない。
でも、命がある。
だから今日を生きる。今日の続きの明日を生きる。
だって、時間に後戻りなどなく、人生は前にしか進まないんだもんね。
周りの人々も「過去」という名の先入観なく、ただ当然のように、男を受け入れる……。
感想
というわけで、同じ記憶喪失ものでも「ボーン・アイディンティティ」とは全然違います。
命からがら生き延びても、わざわざ復讐を誓ったり、サイボーグになったり、正義の味方になったりしないし、宇宙にもいかない。
主人公はあくまでも、単に記憶がないだけの普通の男で、ただ淡々と日常が過ぎていく。
陰謀も任務も関係ないけど、運悪く殴られもすれば運良く拾われもする。音楽が流れて、恋もする。
いやぁ、結構たくましい。
まあ、恋の相手がカティ・オウティネンってとこだけはすごいメルヘン!!
ピリリとスパイシーな、猛犬ハンニバルもいる。
あとはただの日常なのに、おかしくておかしくて、妙にハッピーで妙にじわっと迫ってきて妙に揺さぶられてしまうんですよね。
カウリスマキ映画ではおなじみの、登場人物たちの、傍目にわかりにくい喜怒哀楽のおかしさ。
笑っていいのか迷っちゃうけど、ミイラ男を指差して大笑いすればいいし、ムリムリ何かを感じなくちゃ後ろめたいような、押し付けがましさもございません。
ああ、人ってこうだな~みたいなふつうのことに、勝手に胸が詰まったりする。
ただ、出てくる食事だけは、相変わらず、とーーーーーーってもまずそうです。
……なんてニンマリぬるま湯に浸かっていたら、最後にケンさんの「ハワイの夜」なんかに乗って、カウリスマキ映画にあるまじき美食が出てきて裏切られる!!!
えええええええええ!!!
ショ、ショ、ショック!!
(2003年6月)
「過去のない男」データ
The Man without a Past 2002年 フィンランド、ドイツ、フランス
監督
- アキ・カウリスマキ
出演
- マルック・ベルトラ
- カティ・オウティネン
- アンニッキ・タハティ
- マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ
- ユハニ・ニユミラ
- カイヤ・パリカネン
- エリナ・サロ
- サカリ・クオスマネン
- アンネリ・サウリ
- オウティ・マエンパー
- ペルッティ・スヴェーホルム
- タハティ(ハンニバル)